Art & River Bank(東京都 田園調布)

名称
art & river bank(アートアンドリバーバンク)
創立者
杉田敦、杉田里佳
住所
東京都大田区田園調布1-55-20 #206
TEL
03-3722-5452
FAX
03-3722-5452
E-mail
sugi-p@abox6.so-net.ne.jp
URL
http://www.art-and-river-bank.net/
設立
2002年4月(プレオープンは同3月)
スタッフ人数
2人
収入源
スタッフの自己資金と、展覧会をするアーティストの展覧会開催費用 (原則として1週間で10万円)。他に、スペースの基本方針に賛同する数名から 設立に際して賛助金を受けた。
サポート
現時点では経済的サポートはなく、展覧会ごとに必要な資材や機材の提  供・協力をなどに求めている。
企画本数
現在まではほぼ月に1本、2〜3週間の会期の展覧会を開催。
主な客層
美術関係者、学生など。

 評論家の杉田敦氏とキュレーターの杉田里佳氏の夫妻が運営するスペース。今年の 3月にプレオープンとしてアルヴァロ・シザ展(横浜ポートサイドギャラリーと同時 開催)を開催し、4月の伊奈英次展で正式にオープンした。多摩川沿いのユニークな 建物の一室で、こじんまりとしていながら開放的な空間は、ヨーロッパの小さなギャ ラリーのような雰囲気をたたえる。「スペースを持とうという意志をもってオープン したのではなく、場所ありき、のことなんです。もともとこの建物がとても気になっ ていたところに、昨年の秋に<空室あり>の看板をみつけて、ここならやってみたい ということで始めました」という杉田さんご夫妻の言葉にも納得。何とも言えない 魅力のある場所なのだ。

 評論家として作家や作品に関わりつつ、現在は写真の学校で若い学生への講師も勤める敦さんと、コマーシャルギャラリーと企業ギャラリーを経験した後、フリーで展覧会を企画・コーディネートする里佳さんの二人。スペースの費用は、基本的には二人の自己負担によってまかなわれている。ただし展覧会や催事を開催するにあたっては「作家側にも展覧会運営の責任とリスクを負ってもらう」という考え方のもと、展覧会開催費用という形で週に10万円(原則価格)を支払ってもらっている。「私たちが できることは、場所を提供することと、これまで私たちが蓄積してきたベースに基づ くソフトを使う、ということ」。作家選びから展覧会の構成、テキストの作成、メー リングリストの毎回の見直し、必要な素材の手配、広報、作品の販売など、彼ら二人 がこれまで蓄えてきた経験と知識に基づいて、細部にわたるケアがなされているのに は驚かされる。作家の選択に関しては、杉田さん側から声をかけることもあれば、作 家からのプレゼンテーションを受けることもある。いずれの場合にせよ、両者がこの 場所で展覧会を開くに当たって、プロジェクトの内容や場所の運営方針などに関して の基本的な合意があることが原則。レンタルでもコマーシャルでもなく、スペース側 と作家側とが共通認識に基づいてコラボレーションするような形でプロジェクトが進 められ、作品が売れた際には作家と5:5の割合でシェアする。「若い作家に多いこと なんですが、作って展示したあとに作品がどういう形で経済的な価値を持ち、流通し ていくかということにあまりに無関心すぎるという現状があります。作品が社会で成 立するために、経済との関わりはどうしても外して考えるわけにはいかない重要な要 素。だからこそ、展覧会を開催するということの社会的・経済的責任とリスクを自ら 負担し、美術が経済的な価値を持って流通し得るのだということを、小さな規模でい いからここで体験してほしいと思っています」

   ここはコマーシャルギャラリーとも貸し画廊とも、またいわゆる自主運営ともカテゴ ライズしがたいユニークな方針で運営されている。が、だからこそ今の東京での「オ ルタナティブ」でありうるのではないか――「マーケットや美術館などのシステムが 確率されない日本で、オルタナティブというものが果たして成立するのかどうかが疑 問」と里佳さんは言うが、現在の日本(東京)に、漠然とした形であるにせよ確実に 存在する「アートシーン」という閉塞的状況、そこに何らかの形で疑問なり問題なり を認識させる可能性が、わずかでもないわけではない。「私たちのしていることには 、何ら新しいことはありません。これまでの経験と考察から、いま自分たちにできる 範囲のことで、やるべきだと思われることをやってみているだけですから、これから も模索は続くでしょうし、変化もすると思います」。 確かに、彼らのやっていることの一つ一つを拾い上げてみても、新しい、と言えるこ とはほとんどない。あるいはこの場所から何かを強烈に発信している、という感じも ない。こうした活動がどれだけの波紋を投げ掛けることができるのかも分からなけれ ば、果たしてそれが大きな流れの中で何かを変える力を持ち得るのかどうかも、まったく予測はできない。ただひとつ言えるのは、ここで展覧会を開催するアーティストや、彼ら二人と問題意識をもって会話した人にとっては、たとえごく小さなものであろうとも、確実に何か意識に残るのものがあるのではないかということ。それが各人 にとってその後どんな形で成長するのか測ることはできないが、ただ単に流れに身を 任せて美術の中に漂うのとはちがった意識を、もしかしたら目覚めさせることができ るかもしれない。まだできたばかりのスペースには、未熟な部分と未曾有な部分が共 存している。1年、2年と時間が経過したときに、二人が何を考え、進めているか、そ してここを経験したアーティストたちが何を得ていったか、それをまたあらためて見 てみたいと思っている。

 東京をはじめ、日本のあちらこちらに「オルタナティブ・スペース」とか「アーティ スト・ラン・スペース」と呼ばれる場所が増え続けている。そして一方で、それらが 次々にクローズしているのも事実だ。アーティストが自らの活動拠点を求めて場所を 作るケース、場所があるから何かを始めようと仲間を募るケース、オープンスペース として交流の場を提供するケース、または空いている場所でスクワット的に活動を展 開するケース。何かを発信したい、作りたい、というエネルギーが渦巻き、そのパワー が人を動かして小さなコミュニティーを形成し、ネットワークをつなげる。そして美 術関係者やメディアは、新たな展開への期待をもってそこに注目する。だが果たして、 そうした行為に何の希望が見いだせるのか。浮上してくる現象をただ無作為に拾い上 げて情報を流通させるだけでは、何の進化も望めないのではないか。観察者たちには、 事象を洗い出して並べ、それを分析した上で考察し、再び現場に投げ返す努力がそろ そろ必要だし、また当事者たちは、自分たちが今行っていることを外側から観て分析 し、活動そのものに社会性と役割を持たせて行く努力、あるいは少なくともそうした 意識を持つことが求められる。  90年代以降加速する「オルタナティブ・スペース」のブーム的流通に、そろそろ次の ステップへのターニングポイントがくるのではないか、あるいはそれを、今こうして 美術に関わる我々から作っていくべきなのではないか、と、今回の取材を通して考え させられた。 取材/文 沼田美樹(ぬまた みき)